Fukusuke Coffee

コーヒー焙煎の舞台裏|化学を「答え」にしない三浦の頭のなか

FUKUSUKE COFFEE代表の三浦です!

「コーヒー豆を焙煎すると、メイラード反応やカラメル化が起きて風味が生まれる。」

コーヒーの焙煎について調べると、たいていこの説明にたどり着きます。150℃でメイラード反応が始まり、160℃でカラメル化が起き、温度と時間を管理すれば狙い通りの味になる、と。

でも正直に言うと、焙煎しながら「今メイラード反応が起きているから、ここをこうしよう」とは考えていないんです。

もちろん化学反応の知識は持っています。でもそれは「答え」というよりも、味の仮説を立てるための手がかりに近く、実際に豆を焼いて、カップに落として飲んでみて、「なるほど、じゃあ次はこうしてみよう」と考える。その繰り返しの中で、化学の知識が少しずつ意味を持ってくる感覚です。

今回は、焙煎中の化学反応の基本に触れながら、焙煎士が実際にその知識とどう向き合っているのかを、できるだけ率直にお話ししてみたいと思います。


まず、焙煎中に何が起きているのか

焙煎中の化学反応について、基本的なところだけ簡潔に整理しておきます。

コーヒーの生豆には、ショ糖やアミノ酸、クロロゲン酸といったさまざまな成分が含まれています。生の状態ではほとんど「コーヒーらしい味や香り」はありません。これらの成分が焙煎の熱を受けて反応し、新しい物質に変わることで、あの香ばしさや甘み、酸味、苦みが生まれてきます。

代表的な反応は3つ。メイラード反応、カラメル化、そしてクロロゲン酸をはじめとする有機酸の分解です。

メイラード反応は、糖とアミノ酸が熱によって結びつき、褐色の物質(メラノイジン)や数百種類の香り成分を生み出す反応です。パンが焼けるときの香ばしさ、お肉を焼いたときのあの匂い。あれもメイラード反応によるもの。コーヒーの色が茶褐色に変わっていくのも、この反応で生まれるメラノイジンが主な原因です。

カラメル化は、糖が単独で熱によって分解・変化する反応。メイラード反応より少し遅れて進みはじめ、黒糖のような深い甘さやほろ苦さを生み出します。ただし進みすぎると糖が炭化して、いわゆる「焦げ」になる。

有機酸の変化も見逃せません。生豆に豊富に含まれるクロロゲン酸は、焙煎が進むにつれてキナ酸やカフェ酸に分解されていきます。浅煎りにフルーティな酸味が感じられるのは、有機酸がまだ多く残っているから。深煎りで酸味が穏やかになるのは、それらが分解された結果です。

ここまでは、コーヒーの焙煎に興味のある方なら一度は目にしたことのある内容かもしれません。


「何度でこの反応が起きる」は、そこまで単純ではない

ネット上の記事を読むと、「150℃でメイラード反応が活発化する」「160℃からカラメル化が始まる」と書かれていることが多いと思います。

たしかに、化学的にはそうした温度帯で反応が起きやすいのは事実です。でも実際に僕の焙煎では、この数字をそのまま当てはめて焼いているわけではありません

理由はシンプルで、豆の外側と内側では温度が違うからです。

焙煎機のプローブ(温度計)が示すのは、あくまで「豆の表面付近の温度」に近い数値です。でも実際には、豆の表面と中心部ではかなりの温度差があります。焙煎の初期段階ではその差が特に大きく、表面はすでに150℃を超えていても、中心部が同時に150℃に到達していないと思います。

つまり「プローブが150℃を示したからメイラード反応が始まった」と言い切ることは難しいんです。豆の表面では反応が進んでいても、中心部ではまだ水分が抜けきっていない、ということが起こり得る。

もうひとつ興味深いのが、同じ温度にたどり着いた豆でも、そこに至るまでの「道のり」が違えば、焙煎の進み具合が変わるということです。

たとえば、初期に高い火力で一気に温度を上げた豆と、低い火力でゆっくり上げた豆。ある時点で同じ温度に到達したとしても、ローストカラー(豆の色の進み具合)を測ると、前者のほうが焙煎が進んでいることがあります。温度だけでなく、どれだけのエネルギーがどんなペースで豆に入ったかが、化学反応の進み方に影響しているわけです。

この「温度差」と「たどり着き方の違い」を知ると、「何度でどうこう」と断言することの危うさが見えてくると思います。


焙煎士の頭の中にある「問い」

ここから少し、焙煎中に私が何を考えているかをお話しさせてください。

焙煎のプロファイル(温度の上がり方のカーブ)を考えるとき、大きく3つのフェーズに分けて捉えています。初期の水分を抜く段階、メイラード反応が活発になるとされる中盤(通称「メイラードフェーズ」)、そして1ハゼ以降の仕上げの段階。

よく「メイラードフェーズを伸ばすと甘みが出る」と言われます。実際にこの区間の時間を長くとると、味わいに変化が出るのは事実です。でも、ここで立ち止まって考えるんです。

「この味の変化は、本当にメイラード反応が長く起きたから生まれた味なのか?」

メイラードフェーズと呼ばれる時間帯を伸ばしたとして、それは単にその温度帯に長く滞在したという事実があるだけで、「メイラード反応がどのくらい進んだか」は正確にはわからない。もしかしたら、同時に起きている別の反応のほうが味に影響しているかもしれない。そもそも自分の認知の外で、まだ気づいていない反応が起きている可能性だってある。

こういう問いかけを、焙煎のたびに繰り返しています。

化学反応の知識があるから、仮説は立てられる。「この温度帯でこういう反応が進んでいるとすれば、時間を伸ばせばこんな味になるのではないか」と。

でもそれはあくまで仮説であって、最終的な答えはカップの中にしかありません

焙煎して、抽出して、飲んでみる。仮説と結果がずれたら、次の焙煎で別のアプローチを試す。その繰り返しの精度を上げてくれるのが、化学の知識なんだと思っています。


甘さの「発達段階」で焙煎度を捉える

焙煎度を表すとき、「浅煎り・中煎り・深煎り」が一般的です。FUKUSUKE COFFEEでもそう表記しています。

ただ、焙煎を設計するときには、もう少し違う軸でも考えています。それが「甘さの発達段階」です。

世界コーヒー焙煎選手権(WCRC)のヘッドジャッジを務めているJake Ho氏によると、焙煎の甘さの発達をこんなふうに段階的に捉えます。

もっとも浅い段階が「Grain(穀物的な甘さ)」。生の麦や穀物を思わせるような、素朴で未発達な甘さです。

焙煎が進むと「Candy(飴のような甘さ)」の段階に入り、さらに進むと「Chocolate(チョコレートのような甘さ)」に変わっていく。

この間にはさらに細かい段階があって、Grain PlusやCandy Minus、Candy Chocolateといった中間的な表現で焙煎の甘さの状態を捉えます。

ここで面白いのが、コーヒーにおける「甘さ」には2種類あるということです。

ひとつはSweet Taste。舌で感じる味覚としての甘さ。

もうひとつはSweet Aroma。鼻に抜ける香りとして感じる甘さで、こちらは焙煎(ロースト)由来の成分によるものです。

焙煎度が進むほどSweet Aromaは強くなる傾向がありますが、Sweet Tasteは途中から減少していくこともある。この2つの甘さのバランスをどこに持っていくかが、焙煎設計のひとつの大きなポイントになっています。

「甘い」とひとことで言っても、その甘さがどちらから来ているのかを意識すると、焙煎度の選び方がずいぶん変わってくると思います。


口当たりの裏側にある成分のはなし

コーヒーを飲んで「渋い」「喉がイガイガする」「ざらつく」と感じたことがある方もいるかもしれません。こうした口当たりの不快感には、それぞれ異なる成分が関わっています。

舌の上が乾くような渋み(Astringency)。これはクロロゲン酸に由来します。クロロゲン酸は110℃以上で分解が進むので、焙煎の初期段階で十分な熱が入っていないと残りやすい。

喉の横に感じる乾燥感(Dryness)。こちらはトリゴネリンという成分が原因です。トリゴネリンは180℃以上で減少するため、1ハゼ以降の時間が短すぎると出やすくなります。

ちなみにアラビカ種はカネフォラ種(ロブスタ)よりもトリゴネリンを多く含んでいるので、この点はスペシャルティコーヒーの焙煎では特に意識するところです。

喉の真ん中を掻きむしりたくなるような刺激(Harshness)。これはキナ酸の増加やDKP(ジケトピペラジン)と関連しています。1ハゼ後に火力が強すぎたり、ダンパーを締めすぎたりすると出やすい。

こうした「不快な味」の多くは、焙煎のコントロールで回避できるものです。

私が焙煎を設計するとき、実はこの「ネガティブな要素をどう防ぐか」から考えることが多いんです。

スコーチング(焦げ)を起こさない熱量。アストリンジェントにならない初期のエネルギーの入れ方。ドライネスが出ない後半のロースト時間。ハーシュネスの原因になるDKPを増やしすぎないバランス。

そこから「ネガティブを避けた上で、どこにポジティブな味をどれだけ乗せるか」を組み立てていく。この順番が、安定しておいしい焙煎をするための考え方の土台になっています。


熱の伝わり方と、焙煎の「前半」が大切な理由

少し物理寄りの話になりますが、焙煎を理解するうえで「熱の伝わり方」は避けて通れません。

フーリエの法則という物理の原則があります。ざっくり言えば「温度差が大きいほど、熱は速く伝わる」ということ。

焙煎の初期段階は、釜の温度と豆の温度の差がもっとも大きいタイミングです。ここでしっかりエネルギーを与えると、効率よく豆の内部まで熱を通せます。

もうひとつ大事なのが、水の存在です。生豆は10〜12%ほどの水分を含んでいて、水は空気よりもはるかに熱伝導率が高い。つまり、豆がまだ水分を多く含んでいる初期段階こそ、熱が内部に届きやすいタイミングでもあるんです。

だから焙煎の前半は、スコーチングを起こさない範囲で、できるだけしっかり熱を入れたい。内部まで十分に熱が通っていないと、後半でいくら丁寧に焼いても芯が生焼けの状態(アンダーデベロップメント)になってしまう。逆に、外側にばかり過剰な熱がかかると焦げ(スコーチング)になる。

前半で豆の内部まで均一に熱を通したうえで、中盤のメイラードフェーズをどの程度伸ばすかを考える。メイラードフェーズを伸ばせば酸味が複雑になり、風味豊かになる傾向がありますが、伸ばしすぎるとDKPが増えてハーシュネスにつながることもある。

後半はRoR(温度上昇率)を落としすぎないように注意しています。

RoRが極端に下がると、カラメル化のプロセスが失速してしまう。この状態がいわゆる「ベイクド」で、ポップコーンや硬いシリアルのような鈍い風味が出て、アシディティもフラットになってしまいます。

こうした判断をひとつひとつ積み重ねて、「最終的にカップの中でどんな体験が生まれるか」を逆算しながら焙煎しています。


焙煎は「液体を作るための過程」

これは私がいつも大切にしている考え方なのですが、焙煎のゴールは「豆をうまく焼くこと」ではなく、「おいしい一杯の液体(コーヒー)を作ること」だと思っています。

同じ焙煎の豆でも、抽出方法や水の条件、挽き目が変われば味はまるで違うものになります。ある抽出条件では欠点として現れる特徴が、別の条件では気にならないこともある。

だから焙煎を考えるとき、「この豆をどんな条件で抽出するか」まで含めて設計しています。

届けたいお客様がどんな器具で、どんなふうに飲んでくださるのか。ハンドドリップなのか、コーヒーメーカーなのか。お湯の温度は高めか低めか。

そこまで想像したうえで、「この抽出条件で飲んだときに、この味わいが立ち上がるように」と逆算して焙煎をコントロールする。それが焙煎技術だと私は考えています。


化学は「答え」ではなく「問いを立てるための言葉」

ここまで読んでくださった方は気づかれたかもしれませんが、この読みものでは「メイラード反応でこうなる」と断言することを意識的に避けています。

化学反応に関する知見は、常にアップデートされ続けています。

世界コーヒー焙煎選手権の評価基準もCVA(Coffee Value Assessment)の導入に合わせて更新されていますし、私自身もさまざまなセミナーや文献を通じて学び直す日々です。今の理解が来年には変わっている可能性だってある。

だからこそ、化学の知識は「これが正解です」と言い切るためのものではなく、「こういう現象が起きているとすれば、こうすればこんな味になるんじゃないか」と問いを立てるための言語だと捉えています。

仮説を立てて、焙煎して、カップで確かめて、また問い直す。

地味なサイクルですが、この繰り返しの先に、お客様の心に届く一杯がある。FUKUSUKE COFFEEでは、そう信じて日々焙煎と向き合っています。

コーヒーの化学は、知れば知るほど「わからないこと」が増えていく世界です。でも、そのわからなさの中にこそ面白さがある。この読みものが、みなさんのコーヒーへの好奇心をもう少しだけ深くするきっかけになればうれしいです。


あなたのことも、教えてください

FUKUSUKE COFFEEの読み物は、私たちが一方的に「伝える」ためのものではなく、みなさんと一緒につくっていきたいと考えています。

・このコーヒー、どう選べばいい?
・プレゼントで失敗しないコツを知りたい
・浅煎りって、正直よくわからない
・こんな話、読んでみたい
・最近こんなことで悩んでいます
などなど、どんな小さなことでも大丈夫です。

ふと感じた疑問や、知りたいこと、悩んでいることを、そっと教えてください。

いただいたお声は、次の読みものや商品づくりのヒントとして、ひとつひとつ、大切に活かしていきます。


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