コーヒーの味わいを言葉にしようとしたとき、「酸味」や「苦味」はなんとなくわかる。でも「ボディ」と言われると、途端にぼんやりしませんか。
「ボディがある」「フルボディ」。ワインの世界から借りてきたこの言葉は、コーヒーでもよく使われます。けれど、その正体を聞かれると、意外とうまく答えられない方が多いのではないでしょうか。
この読みものでは、ボディとは何なのかを、できるだけ具体的にひも解いていきます。「なんとなく」を「なるほど」に変える手がかりになればうれしいです。
「ボディ」とは、口の中で感じる液体の重さのこと

ボディを一言で表すなら、「コーヒーを口に含んだときに感じる液体の重さや厚み」です。
味覚ではなく、触覚に近い感覚。舌の上にのせたときに「さらっとしている」のか「とろっとしている」のか。飲み込んだあとに「すっと消える」のか「じんわり残る」のか。そういった口の中の物理的な感触を、ボディという言葉で表現しています。
もう少しイメージしやすくするために、水と牛乳を思い浮かべてみてください。どちらも液体ですが、口に含んだときの重さがまるで違いますよね。水はさらさらと軽い。牛乳はとろりとして、舌にまとわりつくような厚みがあります。
コーヒーのボディもこれと同じで、「軽い(ライトボディ)」から「重い(フルボディ)」まで、グラデーションがあるんです。
ボディの正体は、液体に溶け込んだ成分

では、このボディの「重さ」は何によって生まれるのでしょうか。
答えは、コーヒーの液体に溶け込んでいる成分の量と種類です。
コーヒーは、お湯が豆の中からさまざまな成分を引き出してできる飲み物です。有機酸、糖類、タンパク質、油脂、多糖類、メラノイジン(焙煎中のメイラード反応で生まれる褐色の物質)。こうした成分が水に溶け込んだり、微細な粒子として液中に漂ったりしているんです。その総量が多く、とくに油脂やメラノイジン、多糖類の割合が高いほど、液体は重く、厚みのある口当たりになります。
専門的な言い方をすると、TDS(Total Dissolved Solids=総溶解固形量)という数値がこの「溶け込んだ成分の量」に近い指標です。屈折計という道具で測定できるもので、数値が高いほど液体に含まれる成分が多く、濃い味わいになる傾向があります。ドリップコーヒーの場合、TDSはおおむね1.15〜1.45%程度。エスプレッソだと8〜12%にもなります。
ただし、TDSが高い=ボディが強いとは単純にはいえません。たとえば酸味の成分がたくさん溶け出していても、口当たりは軽やかに感じることがあります。ボディにとくに影響するのは、油脂や多糖類など、液体にとろみや粘性を与える成分なんです。
「コク」と「ボディ」は、似ているけれど違う
日本語では「コクのあるコーヒー」という表現がよく使われます。ボディと同じ意味で語られることも多いのですが、厳密には少し違います。
コクというのは、味わいの深み、広がり、そしてそれが口の中に残る持続性を含んだ言葉。甘味やうま味、ほどよい苦味が重なり合って生まれる「おいしさの総合評価」に近い表現です。
一方、ボディはもう少し物理的で、味の良し悪しとは切り離された概念です。フルボディだから良いわけでも、ライトボディだから物足りないわけでもない。軽やかですっきりしたライトボディのコーヒーに、見事なフレーバーが宿っていることは珍しくありません。
FUKUSUKE COFFEEでカッピング(味わいの評価)をするときも、ボディの強弱は「好みの一要素」として扱います。私たちがよくお客さまにお話しするのは、「ボディは、自分の好みの輪郭をつかむための目印のひとつですよ」ということ。重さを感じるのが好きか、軽さが心地いいのか。そこに正解はありません。
ボディを左右する3つの要素
同じ豆でも、条件によってボディはかなり変わります。大きく影響するのは、焙煎度、豆そのものの性質、そして抽出方法です。
焙煎度の影響

焙煎が深く進むほど、豆の中ではメイラード反応やカラメル化が活発に起こり、メラノイジンやカラメル化合物が増えます。これらの成分は液体に溶け込んだときに粘性を高めるため、深煎りのコーヒーはフルボディに感じられやすい傾向にあります。
逆に、浅煎りでは有機酸やフルーティな成分が多く、液体としては軽やか。ライトボディ寄りの口当たりになることが多いです。
ただ、深煎り=フルボディという公式が常に成り立つわけではありません。
焙煎の仕方が雑だったり、豆の品質が低かったりすると、深煎りでも厚みのないスカスカした味わいになることがあります。私たちが焙煎のとき意識しているのは、「甘さがしっかり発達しているかどうか」。甘さの発達が十分であれば、浅煎りでもしっかりとした口当たりが生まれることがあるんです。
豆の性質(品種・産地・精製方法)

豆そのものが持っている脂質や多糖類の量は、品種や栽培環境によって異なります。
たとえばインドネシア・スマトラ島のマンデリンは、独特のウェットハル製法と相まって、重厚なボディを持つことで知られています。一方、エチオピアのウォッシュド(水洗式)で精製された豆は、クリーンで軽やかな口当たりが特徴的。
精製方法も見逃せません。ナチュラル(乾式)で精製された豆は、果肉と一緒に乾燥させる過程で糖分や有機物が豆に移行しやすく、結果として甘みとボディが増す傾向があります。ウォッシュドは果肉を先に取り除くため、クリーンですっきりした仕上がりになりやすいです。
例えば同じエチオピアでも、ナチュラルとウォッシュドでは口当たりが明確に違います。飲み比べてみると、ボディの違いが体感としてすっと入ってきますよ。
抽出方法の影響

ここが、ご自宅でボディをコントロールしやすいポイントです。
豆の量を増やす、挽き目を細かくする、お湯の温度を上げる。これらの調整はいずれも、豆から引き出される成分の量を増やす方向に働きます。つまり、ボディが強くなりやすいんです。
反対に、粗挽きにしたり、豆の量を控えめにしたりすると、すっきりと軽い口当たりに近づきます。
抽出器具も影響します。ペーパーフィルターを使ったドリップでは、紙が油脂を吸着するため、比較的軽やかな仕上がりに。フレンチプレスは金属フィルターなので油脂がそのまま液体に残り、ボディを感じやすくなります。

ひとつ覚えておきたいのは、調整するときは「一度にひとつだけ変える」こと。豆の量も挽き目もお湯の温度も全部変えてしまうと、どの要素がどう影響したのかがわからなくなります。
カッピングの世界ではどう評価される?

コーヒーの品評会やカッピング(専門的なテイスティング)では、ボディは評価項目のひとつとして扱われています。
SCA(Specialty Coffee Association=スペシャルティコーヒー協会)の評価基準では、ボディは「Mouthfeel(口当たり)」に関連する項目として位置づけられています。High Body、Medium Body、Low Bodyの3段階で強弱を評価しますが、ここで大事なのは「強ければ高得点」ではないということ。
軽くても質の高いボディ、重くても質の高いボディ、どちらも正しく評価される仕組みです。
シルキー(絹のようになめらか)、クリーミー(とろりとした厚み)、ジューシー(果汁のようなみずみずしさ)。ボディには強弱だけでなく、「質」の違いもある。この点が、ボディの奥深いところです。
2023年にSCAが本格導入したCVA(Coffee Value Assessment=コーヒー価値評価)でも、記述的評価のなかでボディの質感が記述対象に含まれています。「重い・軽い」だけでなく「どんな質感なのか」まで言葉にしようとする流れは、年々強まっています。
自分の好みをつかむための小さな実験
ボディの違いを感じるいちばん簡単な方法は、焙煎度の異なるコーヒーを2種類用意して、同じ条件で淹れて飲み比べること。

たとえば浅煎りと深煎りを1杯ずつ。口に含んだとき、どちらが「重い」と感じるか、どちらが「軽い」と感じるか。舌の上での滞在感はどうか。飲み込んだあとの余韻に違いはあるか。
そうやって比べてみると、ボディという言葉が急に実感を伴うものになります。
もうひとつ試してほしいのは、同じ豆で挽き目だけを変えてみること。中挽きと細挽きで淹れ比べると、挽き目ひとつでこんなに口当たりが変わるのかと驚くはずです。
むずかしく考える必要はありません。「今日のコーヒー、なんだか重たいな」「今日は軽やかだな」。そう感じたときに、「ああ、これがボディの違いか」と気づけたら、それだけでもう十分です。
おわりに

ボディとは、コーヒーを口に含んだときに感じる液体の重さや質感のこと。その正体は、液体に溶け込んだ油脂や糖類、メラノイジンといった成分たちです。
酸味や苦味のように「味」として舌で感じるものではなく、もう少し触覚的で、体感的な要素。だからこそ言葉にしにくいし、最初は掴みどころがないように思えるかもしれません。
でも、一度気づくと不思議なもので、毎日のコーヒーのなかに「ああ、今日はちょっと軽いな」「この豆はしっかりしてるな」という感覚が自然と生まれてくるようになります。
FUKUSUKE COFFEEのお店では、「この豆、ボディはどんな感じですか?」と聞いてくださるお客さまが少しずつ増えてきました。そう聞かれると、三浦はうれしそうに豆の個性を話し始めます。
酸味、苦味、甘味。そこに「ボディ」という視点が加わると、コーヒーの味わいがぐっと立体的に見えてくる。その感覚を、ぜひ楽しんでみてください。
あなたのことも、教えてください
FUKUSUKE COFFEEの読み物は、私たちが一方的に「伝える」ためのものではなく、みなさんと一緒につくっていきたいと考えています。
・このコーヒー、どう選べばいい?
・プレゼントで失敗しないコツを知りたい
・浅煎りって、正直よくわからない
・こんな話、読んでみたい
・最近こんなことで悩んでいます
などなど、どんな小さなことでも大丈夫です。
ふと感じた疑問や、知りたいこと、悩んでいることを、そっと教えてください。
いただいたお声は、次の読みものや商品づくりのヒントとして、ひとつひとつ、大切に活かしていきます。

FUKUSUKE COFFEE ROASTERY 愛知県安城市から”福を届ける”コーヒーロースタリー

